障がいを持つ人が抱える悩みを解消するアダプティブファッション
指を使ってボタンを留める、しゃがんで靴を履くなど毎日おこなう「着替え」の中の動作。その一つひとつを当たり前と感じていませんか?そんな服の着脱方法が原因で快適にファッションを楽しむことができない人々がいます。障がいのある人々に適応した衣類を指す「アダプティブファッション」がすべての人がファッションを楽しむための鍵となるかもしれません。
障がい者の生活を手助けする アダプティブファッションに注目
——世界の約8人に1人が障がいを持ちながら暮らしている
国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」によると、世界人口の12%に相当する10億人が障がいを持ちながら生活していると言われています。その数は人口増加や医学の進歩による高齢化によって増加しており、日本でも2006年から2018年の12年間で障がい者数が655.9万人から936.6万人と、約300万人近く増加しています(※)。また、高齢になることで身体機能が低下し、以前まで簡単に出来ていた「服を着る、脱ぐ」という動作が困難になる人も。1人でも多くの人が自分らしく生きるために、障がいを抱える人々が快適に過ごす方法を模索し続けなければなりません。
出典:内閣府「厚生労働白書」(平成30年版) https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/18/dl/all.pdf
——障がいを緩和するために開発されたアダプティブファッション
障がいの有無に関係なく着られるファッションブランドを展開するSOLIT株式会社が障がい者を対象におこなった「ファッションにおけるお困りごとに関する調査」(※)によると、4人に1人が「着脱のしやすいデザイン」をアパレルメーカーへ求めています。世界中を見渡しても健常者の着用を前提としたアイテムを展開するブランドがほとんど。障がい者が心地よく日々を過ごすための衣服の選択肢が必要とされています。
そんな中、注目されているのがアダプティブファッション。障がい者の生活に適応したデザインが施された衣類のことで、近年多くのブランドで採用され、販売されるようになりました。マグネットタイプのボタンや靴紐のない靴、服の布地やラベルに敏感な自閉症の方向けの低刺激素材を使用した服などが例として挙げられます。このように着用者の身体やニーズに合わせたファッションが増えてきています。
出典:「ファッションにおけるお困りごとに関する調査」SOLIT株式会社 https://solit-japan.com/blogs/journal/survey-review
アダプティブファッションを展開する ファッションブランド
アダプティブファッションは障がいを持った方だけでなく、活発な動きが困難な妊婦や両手が塞がる育児中の方など、より多くの人に寄り添っているのが特徴です。今回はアダプティブファッションを取り入れている3つのブランドをご紹介。身近なブランドが次々と、「すべての人がもっと自由にファッションを楽しめる」ように工夫を凝らしています。
TOMMY HILFIGER
創業者であるトミー・ヒルフィガー氏自身が自閉症の子供との日々の経験をきっかけに「Tommy Hilfiger Adaptive」が誕生。障がいを持つ人々が自立心と自信を持って生活できるようなファッションを、業界でいち早く展開しました。2020年には日本での発売も開始し、今後はヨーロッパを含む多くの国々で拡大される予定です。
NIKE
ハンズフリーで靴を着脱できる「ナイキ ゴーフライイーズ」を2021年に発表。体重をかけるだけでフィットするフライイーズ技術は、バスケットボールやランニングなどの多様なフットウェアモデルに採用されています。両手で靴を履くのが困難な障がい者や妊婦など幅広い人が快適に活動できるようになるのを目標に掲げています。
THE NORTH FACE
赤ちゃんを抱っこしたまま着用できるだけでなく、産前から産後までの体型の変化に合わせてカスタマイズできるダウンなどライフスタイルの変化に合わせた衣服を提案。
今回は「多様なニーズ対応したファッション」であるアダプティブファッションに注目しました。誰かにとっての「当たり前」は、別の誰かにとっての「当たり前」とは限らないということ。アダプティブファッションの価値は、ファッションを楽しむ、以上のものになっていくのではないでしょうか。「誰一人取り残さない未来へと繋がるファッション」は、これからも多様に進化していきそうです。