「金継ぎ」のすすめ。割れてしまった大切な器がより美しくよみがえる
気に入って購入したもの、いただいた思い出の品、そんな大切な器が割れてしまって、悲しい思いをしたことはありませんか?日本には古くから陶器などの割れや欠け、ひびを修復する「金継ぎ(きんつぎ)」という伝統的な技法があります。美しく修繕することで、壊れてしまった器に新たな価値を与える「金継ぎ」は、長くものを愛し、使い続けるためのサステナブルな取り組みとしても注目を集めています。今回は、ワレモノ修理プロジェクト「モノ継ぎ」を主催し、美術品・器などの修繕をおこなう金継ぎ職人、持永かおりさんに「金継ぎ」の魅力について伺いました。
古くから日本で受け継がれてきた 「金継ぎ」の歴史
「金継ぎ」とは、割れたり欠けてしまった陶磁器などに漆を用いて修繕、仕上げに金で装飾する技法のこと。仕上げの際に漆を使えば「漆継ぎ」、銀を使えば「銀継ぎ」と呼びます。
写真提供:monotsugi 「銀継ぎ」の一例。 青磁の茶碗に、粉筒(ふんづつ)という、葦(あし)にメッシュを張ったふるいのような道具を使い、銀粉を蒔いたところ。この後、漆で銀粉を固め、磨いて仕上げます。
写真提供:monotsugi 「モノ継ぎ」では和食器だけでなく、洋食器のご依頼も多いとのこと。 柔らかな印象のフランス製の器に銀継ぎが映えます。
漆で器を直す起源は、漆の木の樹液を塗料や接着剤として使っていた縄文時代に遡ります。「金継ぎ」、「金繕い」と呼ばれるようになったのは、「茶の湯」の文化が花開いた室町時代頃といわれており、高価な器の破損を美しく修復するために漆で継いで金などで装飾していたそうです。その継ぎ目は「景色」と呼ばれ、壊れてしまった器に新たな美の価値観を見出してきました。
もしもお気に入りの器が割れてしまったら どうする?「金継ぎ」の方法
陶磁器などは、バラバラに割れてしまっても、破片がなくなってしまっても、「金継ぎ」によって修繕することができます。ガラス製品や漆器を直すには技術が要るので専門の方へお願いした方が良いですが、日常で使う器のちょっとした欠けや破片の少ない割れなどは、漆を使って自分で直すこともできます(※)。漆を使った「金継ぎ」は、一つの器を直すのに2か月以上の時間が必要な場合もありますが、最大の利点は食器として安心して使えるということです。
(※)液状の漆を触るとアレルギー反応を引き起こし、かぶれてしまう可能性があります。金継ぎをするとき漆に直接触れてしまわないように、ゴム手袋などをして手を保護しましょう。
一方、簡単に早く直せる合成接着剤を使った「簡易金継ぎ」は、乾燥させる時間が短く簡単に修繕できますが、安心して飲食に使用するには不安が残ります。
一つの器を直すのに2か月以上時間をかける「金継ぎ」は、スピードと手軽さが求められる今の時代に逆行しているように見えますが、慌ただしい現代だからこそ、気温や湿度を感じながら時間と手間をかけて器と向き合うことの豊かさを実感する方が増えています。
写真提供:monotsugi なくなってしまった破片をガラスで成形し組み合わせた、珍しい「呼び継ぎ」のカップ。ガラスと陶器を漆で継いでいるので、安心して飲食に使えます。
見た目も美しい、「金継ぎ」による ビフォーアフターをご紹介
壊れてしまった事実を無かったことにせず、偶然と必然で生まれた傷跡にその器にまつわる様々な思い出を刻めるのは「金継ぎ」の一番の魅力ではないでしょうか。器を愛する気持ち、割ってしまった人を気遣う思い、その器と過ごした時間までもが刻まれたその「景色」により、一層美しく思えて長く使い続けられます。「修繕を通して日々金継ぎの魅力を感じている」という持永さんの手掛けた「金継ぎ」による修繕をご紹介していきます。
ご依頼主が家族からもらった大切な茶碗
華やかな絵柄の茶碗に金のラインが映えて、より魅力のある茶碗へと変身しました。割れたものは水で練った小麦粉と生漆(きうるし)を混ぜてつくる「麦漆」で接着します。
写真提供:monotsugi
バラバラに割れてしまったマグカップ
この器の持つ魅力的な釉肌や形に合うよう、「銀継ぎ」により修繕。銀は経年すると燻銀へと変化します。
写真提供:monotsugi
ものを長く大切にするために古くから受け継がれてきた「金継ぎ」。壊れてしまっても時間をかけて修繕して、「また愛用したい」と思えるようなものがあることは、私たちの人生を豊かにしてくれます。時間や手間をかけるのが惜しまれるこの時代だからこそ、お直しに出したり気軽に参加できるワークショップに参加して、大切な器と向き合ってみてはいかがでしょうか。