まるでニットの3Dプリンター!“ホールガーメント”がサステナブルな理由
一着の服を作るのに、たくさんの資源がごみになっていることを知っていますか?つい目をそむけたくなる現実ですが、“おしゃれはわくわくして楽しいもの”だからこそサステナブルであってほしいと、ファッションに関わる方々は日々模索し続けています。今回は、ファッション業界が抱える課題のひとつ、資源のロスを最大限減らすことのできる「ホールガーメント」について。山梨のニットメーカー・寺田ニットの方と「ホールガーメント」の機械を手がける島精機製作所の方々が一緒に、世界から注目される技術についてわかりやすく教えてくれました。
この記事でわかること
- 廃棄や作りすぎ、人員不足などファッション業界が抱える課題を解決する理想のニットマシン
- 無縫製で立体的。デザイン性と着心地の良さが魅力の“ホールガーメント”とは
- ホールガーメントがサステナブルな理由
ごみが出るのは仕方がない、でも… 服作りに関わる人たちが抱えているジレンマ
——通常、服はどのような工程でできあがるのでしょうか?
まず糸を作り、糸から布が作られます。その布を型に合わせて裁断し、縫い合わせるというのが通常の工程です。環境に配慮している工場は、生地のサンプルや裁断したときに出る裁断くずを再生していることもありますが、手間がかかるので多くは廃棄されているのではないでしょうか。(島精機製作所・藤原 由光さん)
——一着作るごとに、余り布が出てしまうんですね。
それとね、普通は製品サンプルをたくさん作らなければならないので、それも結局ごみになってしまうんです。あとは、たくさん作って余ってしまった服はバーゲンになるでしょう。それでも売れないと焼却処分するから、結果地球を汚すことにつながっているんです。(寺田ニット社長・寺田 光彦さん)
環境への負荷を減らすためには、一着あたりの無駄を削減するのはもちろんのこと、そもそも余分なものを作らない、ということを目指すべきだと思っています。(島精機製作所・雑賀 透さん)
工場内で編み上がったばかりの製品を見る寺田ニットの寺田 光彦社長(写真中央右)と、島精機製作所で国内の営業を統括する雑賀 透さん(写真中央左)。かつて山梨県エリアの営業担当だった雑賀さんは、寺田社長と20年以上の間柄。 島精機製作所の経営企画部部長・藤原 由光さん(写真右)、山梨県ほか首都圏の営業を担当する阪本 康行さん(写真左)。
工場内の掲示板には、全員で共有したい社会問題や、より良い仕事をするための目標が掲げられている。
その様子はまるで“ニットの3Dプリンター”! 一本の糸から立体をつくり出す新しい技術
——島精機製作所さんの横編機で作られる「ホールガーメント」は、通常の服作りとは全く違う工程でできあがるそうですね。
「ホールガーメント」というのは、一着まるごと立体的に編み上がる無縫製のニットウェアのことです。(島精機製作所・雑賀 透さん)
——一着まるごと、ほぼ機械だけでできるんですね。具体的にどのような工程を経てできあがるのですか?
「ホールガーメント」の機械用に下準備した糸をセットします。機械はハイゲージ用、ローゲージ用というように、編み目の大きさに合わせて作られています。ニットの仕様はデザイン画を元にコンピュータで設計されているので、糸がセットされたら機械が司令通りに編んでいきます。編み目の大きさにもよりますが、だいたい一着あたり60〜90分で編み上がりますね。(寺田ニット・寺田 義久さん)
——編み上がった段階で、前も後も袖も繋がっているから、縫う必要がないんですね。
そう、無縫製で立体的だからきれいなシルエットになるんです。うちのニットを着ている人を見ると、“あぁ、やっぱりきれいだな〜”と思いますね(笑)。それと、縫ってあるとどうしてもそこが引っ張られるんだけど、「ホールガーメント」はそれがないから、着心地もいいんですよ。(寺田ニット社長・寺田 光彦さん)
——【ホールガーメントのニットができあがるまで:STEP1 糸準備】
ホールガーメントの機械に合わせた調子(強さ・巻き加減)で糸を巻き直す。糸が巻かれる際には、すべりをよくするためにロウが塗られる。糸が本来の強度を保つために、工場内は湿度60%、気温25度に保たれている。糸もこの環境で保管される。これらも高品質な製品をつくるための下準備だ。
——【ホールガーメントのニットができあがるまで:STEP2 設計図づくり】
コンピューターでニットの形や柄などについての司令を編み機に出すための設計図が作られる。設計図の数はそのまま経験値として積み上がっていき、美しい仕上がりを生む。
——【ホールガーメントのニットができあがるまで:STEP3 糸を機械にセット~編み上げる】
糸が機械にセットされたら、その後はコンピューターで設計された司令に従ってニットを編んでいく。編み針の動きや、糸を送る強さなど細かな部分まで、この機械が実行する。編み上がったニットは、身頃、袖などがすでにつながっていて、すぐに着られそうな形で出てくる。まるで3Dプリンターのようだ。また、編み目が整っているか、抜けている部分はないかなど細かな部分は、一着一着人の目でチェックされる。
——【ホールガーメントのニットができあがるまで:STEP4 仕上げ】
編み上がったニットは、捨て糸を丁寧に取り除き、無駄な排水がでない方法で洗いをかける。その後いくつかの工程を経てプレスされ、タグ付けや検品を経て出荷される。こうした仕上げの細かな作業は人の手が必要になる。
(4・5枚目)ニットの本体に、襟ぐりや袖口の編み方の異なるパーツを縫い合わせる“リンキング”と呼ばれる作業。数少ない熟練の職人によっておこなわれている。
これまでの悩みをほとんど解決してくれる ホールガーメントがサステナブルな理由
——そういえば「ホールガーメント」の機械で作られたニットは無駄な素材がありませんでしたね。
通常ニットは編み方によっては無駄が出るのですが「ホールガーメント」は、糸からそのまま最終製品になるので、無駄を出さない服の作り方と言えます。(島精機製作所・藤原 由光さん)
そう、それに「ホールガーメント」なら、製品サンプルをたくさん作らなくていいですからね。ロスも削減できるんですよ。それとね、一度設計図を作ったものは、例え何年先でもまた作れるんです。(寺田ニット社長・寺田 光彦さん)
島精機製作所の「ホールガーメント」機械で編まれたもの全てにタグがつけられる。「なんてったって、着心地がいいからね。ぜひ若い方にも着てみてほしいですね」(寺田ニット社長・寺田 光彦さん)
——一度にたくさん作っておく必要がない、ということでしょうか?
はい。「ホールガーメント」はニット製品の設計データを保存できるので、糸さえあれば、その都度適正な量だけを作れるんです。しかも、機械でコントロールしているから、仕上がりの微妙な違いも出にくい。つまりいつでも追加生産ができるから、“もっとあったら売れたのに”という販売機会ロスも防げます。都度作ることで極力売れ残りによる廃棄をうまない。これも「ホールガーメント」の強みですね。(島精機製作所・雑賀 透さん)
あとは機械を使うことによって人の手も減らせるから、ニット業界の人手不足が解消できることも大きいですよね(寺田ニット・寺田 義久さん)
「天然素材のニットを家で洗う時は、天然素材に使える洗剤を使って押し洗いして、自然乾燥するといいですよ」と、寺田社長。加えて “着合わせ”のアドバイスも参考に。「静電気がおきないように、なるべく動物性の素材を使ったインナーを合わせるといいですよ。例えばウールのニットならウールやシルクのインナーを選んでみてください」(寺田ニット・寺田 義久さん)
——廃棄や人の作業量が減れば、いろいろな問題を解決できそうですね。今後ファッション業界は何を目指していくべきだと思いますか?
適切な量を作るためには、そもそも洋服の素材である糸をどう確保しておくかが重要なんです。ですから供給体制を整えるところから仕組みを変えていくことですね。誰かが少しずつリスクを負わないと変わっていかないと思っています。在庫を持たなくてもいいような世の中になっていくといいですよね。島精機製作所では、「BLUEKNIT」というファッションのサーキュラーエコノミーを実現する取り組みをはじめました。「BLUEKNIT store」で売ったものは、買い戻してリユースかリサイクルして、100%廃棄ゼロを本気で目指しています。(島精機製作所・藤原 由光さん)
それくらい、地球は崖っぷちに立っていると思うよ。おしゃれで質の良い物を作るのは当たり前、それでいて、人の体にも環境にも良いものを作っていきたいですね。(寺田ニット社長・寺田 光彦さん)
長くニットに携わるお父様と新たな施策を積極的に取り入れる二人の息子さん。あうんの呼吸で通じ合う二世代が3人が、山梨県の社屋兼工場の前で。 寺田 光彦さん/Mitsuhiko Terada(写真中央)1947年山梨県生まれ。株式会社寺田ニットの代表取締役。1975年の創業以降、山梨県のニット産業を50年近く見届けてきた第一人者。 寺田 公仁さん/Kimihito Terada(写真右)専務取締役。難解な内容を分かりやすくかみ砕く能力を活かし、主に技術面でのサポートを担当。 寺田 義久さん/Yoshihisa Terada(写真左)常務取締役として、営業面を担当。今回の工場案内は、主に義久さんの解説によって進められた。
一度着たら忘れられない! 着心地のよさと美しいシルエット
サステナブルなだけでなく、ストレスフリーな着心地や高いデザイン性でも人気のホールガーメントのニット。環境への負荷を考慮し、ホールガーメントのアイテムを積極的にリリースしているINEDでは、毎シーズン人気を博しており、圧倒的な着心地のよさにリピーターも多いそう。まだ試したことのない人はぜひトライしてみて!
ホールガーメントは、編みのテクニックによる立体的な表現が可能なため、着用時に美しいシルエットを表現することができます。動いた時のドレープが美しく、体のラインにすっとなじんでくれます。通常のニットでは縫い合わせがゴワゴワしてしまう肩のラインもすっきりとしていて、シンプルなVネックが一層際立ちます。もちろん着心地も快適で、体にも環境にもやさしいニットです。














