羽毛が繋ぐ「Green Down Project」のあたたかなバトン【前編】
“リサイクルされた羽毛が新毛より綺麗に生まれ変わる” 皆さんは、冬の必需品であるダウンジャケットや羽毛ふとんの“羽毛”が、どこからやってくるのかご存知ですか? 羽毛とは、アヒルやガチョウなど水鳥の毛のこと。水鳥は海や湖など冷たい水面に浮かびます。水面に触れる胸の羽毛の部分は氷点下の水温でも耐えられるようにできており、これがダウンです。今回ご紹介するのは、このダウンをリサイクルして製品をつくる“Green Down Project”について。なんとリサイクルされた羽毛は、新毛よりも清潔で、しかも環境や生き物に配慮された素材なのだそう。このプロジェクトの理事長、長井 一浩さんと、リサイクルダウンをつくる1891(明治24)年から続く羽毛専業メーカー河田フェザーの代表取締役である河田 敏勝さんにお話を伺いました。
この記事でわかること
- 水鳥の飼育日数が激減しているため羽毛の質が落ちている
- “過去の”上質な羽毛を使ったリサイクルダウンは新毛よりも清潔
- “Green Down Project”を立ち上げたきっかけと目的
創業131年“河田フェザー”が営む、 人の手と目を介した羽毛づくり
——そもそも、ダウンジャケットの羽毛って何のことなのでしょうか?
河田さん(以下、河)「ガチョウのグース、アヒルのダック、これら水鳥の毛のことです。グースのダウンはダックより高品質でハリやコシがあります。シベリアなど寒い地域で育つ水鳥は寒さに耐えるために保温性が必要で、特に水に接する胸部分のふわふわした保温力の高い毛をダウンといいます。また、フェザー(軸のついた羽根)というのもあって、これは主に水鳥の翼などの部分です」
長井さん(以下、長)「ダウンはフェザーよりも軽く、たくさんの空気を含んで断熱層がつくられるため暖かいもの。一般的にダウンジャケットなどでは、ダウンとフェザー両方が使われているケースがありますが、ダウンの比率が高いほど暖かいものになります」
長井 一浩さん/Kazuhiro Nagai Green Down Project 理事長 社会福祉法人松阪市社会福祉協議会を退職後、2015年に一般社団法人Green Down Projectを設立。企業や団体などと連携して、ダウンジャケットや羽毛ふとんなどに使われている羽毛を循環資源としてリサイクルすることを、活動を全国に展開。また、東日本大震災をはじめ、全国の被災地へ訪れ災害ボランティアセンターの設置運営や生活支援活動をおこなっている。
河田 敏勝さん/Toshikatsu Kawada 河田フェザー株式会社 代表取締役、博士(医学)、1983年早稲田大学理工学部を卒業後、帝人株式会社を経て1985年に河田フェザーへ入社。2007年には羽屋の5代目として社長に就任し現在までに至る。2008年6月 国際羽毛協会 副会長就任(現任)、2017年5月 一社)日本羽毛製品協同組合 理事長就任(現任)、2017年5月 一社)日本寝具寝装品協会 副会長就任(現任)
——近年の羽毛業界における問題点や課題は何でしょうか?
河「さまざまありますが、最も大きな問題は、水鳥の飼育日数が激減しているため羽毛の質が落ちていることです。羽毛は食用で育てられた水鳥の副産物。近年はとにかく食肉を安価にするために、飼育日数が短くなってきています。通常、飼育日数は、最低でも70日間必要ですが、最近の短いものは25日程度。だから羽に栄養がいかない。また品種改良が進み、鳥自体の免疫力がなくなり羽の品質を保つことが非常に難しくなりました」
これからリサイクルされる羽毛製品の前で語るお2人。ここには毎日リサイクルされる羽毛製品が到着し、鳥種、ダウン率、ファイバー(増量材)の量、黒点の有無など中身をチェック。顕微鏡で詳しく見て、グースかダックかを判別しています。
——質の高い羽毛を手に入れるのが難しくなってきたのですね。
河「そうなんです。良い羽毛とは、飼育日数が長くて品種改良されていないもの。またはこういった問題が出てくる以前に使われていた羽毛ですね」
長「そこで“過去の”上質な羽毛を使うことにしたのです。過去に使われていたものは、飼育日数も長く良質のものが多いため、それをリサイクルダウンとして使う。それがこの“Green Down Project”です。皆さん、リサイクルというと新毛より汚れているとイメージされる方も多いと思いますが、実は我々の品質基準として清浄度3,000mm(※1)をクリアした羽毛だけを採用しており、新毛の基準が2,000mm(※2)なので、新毛よりも清潔なんです。これができるのは河田フェザーさん独自の高い技術によって、異物や菌を徹底的に除去することができるからですね。アカやホコリなど取り除くための機械をオーダーメイドで作られています」
河「機械は日本では作れないのでドイツの企業に発注しました。羽毛は例えばダウンジャケットなど使用中にだんだんと羽が開いて特にアカが溜まりやすい根本の部分が取れます。だからリサイクルダウンの方が洗浄しやすくキレイなダウンになるのです。良いものであれば100年は使っていけますよ」
※1ダウンの清浄度とは:羽毛がどれだけ洗浄されているのかを表すJIS規定で定められた数値のこと。数値が高いほど清潔ということ。ちなみに一般的な羽毛ふとんの場合、業界基準は1000mm。 ※2河田フェザー社が独自に設けた新毛出荷基準は2,000mm以上。
ダウンの清浄度を表す図(写真左)。洗浄後、羽毛の汚れを溶かした水を細長い透視度計に注ぎ、底の印がどのくらい見えるかで清浄度を測る。河田フェザーでは国際羽毛協会から認定されている(一社)UMOUサイエンスラボで実際に清浄度を測定している(写真右)。
リサイクルプロジェクト 「Green Down Project」とは?
分類された羽毛を洗浄して綺麗にしていきます。アカやホコリを網を使った機械で取り除き、羽毛専用の洗濯機を使いお米のように少なめの水でゴシゴシと研ぎ洗い。4回ほど濯ぐことで清浄度を上げていきます。水も羽毛を痛めないようにミネラル分の含有量が全国的にみても極めて少ない三重県明和町の超軟水を使用。
——では、“Green Down Project”はどのような経緯で発足したのでしょうか?
長「私は以前、社会福祉協議会で赤い羽根共同募金を担当していまして、当時から河田フェザーさんにも協力してもらっていました。そこで、河田フェザーさんより、羽毛をリサイクルするために家に眠っている羽毛ふとんなど羽毛製品を回収したいというお話をお聞きしました。赤い羽根共同募金は地域住民の方々が不要となった羽毛製品を寄付していただくことで、募金活動や障がい者の雇用促進、環境保全につながるというしくみなのですが、全体的に共同募金は減っていたので、私は募金額を増やしたい、河田フェザーさんは地域と連携して羽毛を回収したいという目標があり、そこで、私と河田フェザーさんで2014年に“Green Down Project”を立ち上げました」
長「まずは“Green Down Project”がどういうものかを皆さんに理解してもらい、一緒に考えていくために、消費者、アパレル企業の方々などと1年間かけてミーティングをしました。我々の使命、河田フェザーさんの役割、そして小売事業者、消費者の役割など。プロジェクトの中での循環をどういう仕組みにしていくかについて話し合いました。
このプロジェクトには、回収、輸送、選別、解体、洗浄・回復、製品、販売といったサイクルがあります。私たちはSDGsの目標12にある「つくる責任、つかう責任」を大切にし、例えば、販売する場合には必ず回収もお願いすることにしました。また、目標8であり「働きがいも経済成長も」にあたりますが、産業の基盤をしっかり築くことは、皆さんが出番と役割を持つことになり、“Green Down Project”が円滑にまわっていきます。2014年にプロジェクトが立ち上がりましたが、2015年にSDGsが採択され、改めてプロジェクトの意義をSDGsに当てはめていきました」
無数の羽毛が幻想的に部屋の中で舞う!風の力を利用して羽毛を選別する機械です。軽い良質なダウンは奥の部屋へ、羽軸の重みがあるフェザーは手前の部屋へ飛ばされるため、ダウンの比率が高く品質の良いダウンを選別することができるのです。
河田フェザーのラボにて。羽毛に異物などが混入していないか、フェザーの代替素材など品質基準を満たさないものが混ざっていないかなど細かく調べ、高い水準のハードルを超えた品質が高いものだけを使用するという徹底ぶり。









