ファッションで「ルッキズム」と「いじめ」を表現。文化服装学院の学生が考える、身近な社会問題とは
ルッキズム、いじめ、メンタルヘルス、ジェンダー、マイノリティ…。私たちが生きる社会には数えきれないほどの問題があります。特に、SNSの利用が日常化している若い世代は身近な社会問題と隣り合わせで生きています。中には、傷つき苦しみながら誰かに助けを求めている人もいるでしょう。若者は、多様化する社会問題についてどのように感じ、向き合っているのでしょうか。ZOZOは文化服装学院とSHIBUYA109エンタテイメントと連携し、古着のアップサイクル作品を通じて身近な社会問題を発信する、産学連携コラボレーションを実施しました。ファッションを通して社会に対してどのようなメッセージを投げかけたのか、文化服装学院の学生で最優秀賞とソウゾウのナナメウエ賞を受賞した2チームと、本企画の担当者であるZOZOの李銀珠さんの想いを対談形式で紹介します。
アップサイクルファッションを通して 社会問題について考える
——今回の産学連携コラボレーションについて教えてください。
李 文化服装学院ファッション流通専門課程の1年生250人を40チームに分け、それぞれが身近に感じる社会問題をテーマにアップサイクル作品を制作しました。学生さんたちが実際にZOZOの物流拠点に足を運び、ブランド古着のファッションゾーン「ZOZOUSED」の販売基準に満たない古着の中から制作に使えそうな洋服を選びました。全40チームから15チームを選考し、公開プレゼンテーションにて最終審査を実施し、ZOZOの社員も審査員として参加しました。15チームの作品は、2月25日(火)から3月10日(月)まで、SHIBUYA109渋谷店で展示されています。
——3者で取り組むことになったきっかけを教えてください。
李 ZOZOは「ファッションでつなぐ、サステナブルな未来へ。」というサステナビリティステートメントを掲げています。社会や環境を取り巻く問題、次世代支援活動など様々な取り組みをおこなう中で、ZOZOのサービスや大切にしている想いについて発信してきました。昨年までは文化服装学院とSHIBUYA109エンタテイメントが実施しているイベントでしたが、今回初めてZOZOから古着を提供することで、学生さんたちの社会問題に対する意識が変わったり、アップサイクルしてできあがった作品を通じて多くの人々が社会問題について考えるきっかけになればと思ったんです。今回のコラボレーションが、学生さんをはじめ、みなさんにとって明るい未来に向かう一歩になってほしいですね。
「ルッキズム」を否定する強烈な個性。 「唯一無二の花」
李 まず、最優秀賞を受賞したみなさんにお話を伺いたいと思います。なぜ数ある社会問題の中で「ルッキズム」を選んだのでしょうか。
最優秀賞を受賞した「ルッキズム」がテーマの作品。コンセプトは「唯一無二の華」。 チームメンバーは佐瀬はるかさん、持木あづさん、星野杏奈さん、目黒夏萌さん、高津陽菜さん、小林にこさん。
最優秀賞チーム 私たち自身、他人からどう見られているのかを気にしながら生きてきました。その想いはSNSが身近になるほど強くなってきたと感じるんです。今SNSでは誰かの容姿について議論されていたり、「ルッキズムをなくそう」と掲げているのにスタイルのいいモデルを起用して逆にルッキズムを助長するような広告があったり、ルッキズムにおける様々な問題があると考えています。もし私たちの作品をSHIBUYA109渋谷店に飾っていただけることになれば、多くの若い世代に対し「どんな人でも美しいのだから、自分の容姿を受け入れてほしい」というメッセージを届けることができると思い、この社会問題に真剣に向き合いながら作品の制作に取り組みました。
李 「美の定義を壊したい」という想いが作品の細部にまで表現されていたことが、最優秀賞に選ばれた大きな理由だと思います。個性豊かに咲いている花やまだ開花していない花、「他人からの視線」を表した目のモチーフをドレスにあしらい、一目でハッと驚くような作品に仕上がっていました。制作過程で何か苦労したことはありますか?
最優秀賞チーム 私たちは「唯一無二の華」というコンセプトを表現するために、ドレスにたくさんのモチーフをつけました。モチーフである花や目の制作や、それらをドレスにつけていくという細かい作業に多くの時間を費やしたので、本当に大変でした。ですが、つくっていく過程で新しいアイデアが出てきたらデザインを変えていけたのは楽しかったです。
李 作品とともに印象的だったのが作品を撮影したルックでした。モデルはどのように選んだのですか?
「ルッキズム」作品のルック
最優秀賞チーム ルッキズムという社会問題をテーマにしたので、「女の子」という言葉から一般的にイメージされやすいロングヘアーや女性的なヘアメイクの似合う女性ではなく、ジェンダーフルイドなモデルの方にお願いしたかったんです。Instagramで個性的で素敵な方を見つけ、直接依頼しました。
李 都会の雑踏の中に少女が立つ姿を見た時に本当に衝撃を受けました。
誰もがなり得る3つの立場。 「いじめ」における「表裏一体」
李 次はソウゾウのナナメウエ賞(※)を受賞したみなさんにお話を伺います。なぜ「いじめ」という社会問題を選んだのでしょうか。
(※)ZOZOでは、ZOZOらしさとして、アッと驚くような発想や遊び心のある柔軟な発想を持つことを意味する「ソウゾウのナナメウエ」という標語を掲げています。 ZOZOのカルチャー:https://corp.zozo.com/recruit/culture/
ソウゾウのナナメウエ賞を受賞した「いじめ」がテーマの作品。コンセプトは「表裏一体」。チームメンバーは榎本苺さん、古藤有莉さん、長田稚花さん、齊藤実乃梨さん、塚田愛子さん、松木ひなたさん、吉澤苺依さん。
ソウゾウのナナメウエ賞チーム 私たちのグループのメンバーの多くはいじめられていたり、気づかぬうちにいじめに加担していたり、いじめを目の当たりにした経験を持っています。私たちにとってより身近な社会問題のため、自分たちの言葉で伝えやすいと思い、いじめをテーマに選びました。
李 作品を見て「いじめをどのように表現しているのだろう」と疑問に思ったのですが、被害者と加害者、そして傍観者という3つの立場を表しているんですね。
ソウゾウのナナメウエ賞チーム 私たちは「表裏一体」をコンセプトに掲げ、「いじめにおいて、誰もがどの立場にもなり得るし、傍観者の関わり方で状況は変わっていく」ということを作品に込めました。作品は被害者、加害者、傍観者のそれぞれの心情や環境を表現するために3色で構成しています。被害者は涙をイメージさせる青。ファスナーで心の傷を表しています。加害者は荒々しいイメージのある赤。誰かを傷つけてしまうかもしれない棘のある薔薇をあしらっています。頭部や足元には、赤と青の中間色である傍観者を示す紫の生地を使いました。装飾の一つひとつに意味を持たせ、いじめは複雑な問題であるとZ世代に伝えています。
李 いじめという言葉から被害者と加害者の関係性は思い浮かびますが、傍観者という立場を取り上げた点が私たちの想像を超えてきたので、ソウゾウのナナメウエ賞に選びました。ルックも学校で撮影していたのがとても印象的ですね。
「いじめ」作品のルック
ソウゾウのナナメウエ賞チーム 私たちの中で、いじめはやはり学校で起こること。撮影できる場所を見つけるのに苦労したのですが、メンバーの卒業した埼玉の高校で撮影をおこないました。モデルは身近で学校にいそうな黒髪の方にお願いし、メイクでも顔の半分には涙、もう半分にはバラの棘をペイントするなど、いじめにおけるそれぞれの立場を表現しています。
未来や世界を変えるファッションの力
李 ZOZOTOWNでは、「買い替え割」というZOZOTOWNで購入したアイテムを下取りして、注文時に割引できるサービスをおこなっており、お客様がお持ちの買取希望アイテムも同梱できる仕組みになっています。その中にはZOZOUSEDの販売基準に満たないアイテムもあり、専門の買取業者に引き渡しているんです。今回、それぞれの作品に使用した生地はその洋服の中から選んでいただきました。これらの経験を通して、どのように感じましたか?
最優秀賞チーム 販売基準に満たないアイテムの中にも、魅力的な古着がたくさんあることが分かりました。今後は自分なりに色々な使い道を調べて、洋服の価値を最後まで大切にしたいと思いました。
ソウゾウのナナメウエ賞チーム これまで「もう着なくなったから捨てよう」と簡単に洋服を捨ててしまっていたので、これからは今回学んだ裁縫技術を活かして洋服をリメイクしながら長く着ていきたいと思います。
李 今回のプロジェクトに参加したみなさんなら、着用されなくなった洋服に何か違う価値を与えることができるかもしれませんね。今回のプロジェクトに参加して、私自身にとっても洋服の価値について改めて考える機会になりました。
また、それぞれのチームに社会問題について自分たちで考え、ファッションを通して発信してもらいましたが、この経験で感じたことはありますか?
最優秀賞チーム 私たちはルッキズムをテーマに制作したので、自分自身の外見に対する考え方が変化しました。今までは、他人の目が気になって本当は着たい洋服を思うように着られないことがたくさんありました。ですが、作品を制作する中で「自分が着たい洋服を着たら良いんだ!」と自信を持つことができました。
ソウゾウのナナメウエ賞チーム ファッションを通じて社会問題を表現するのは、自分の考えを形にすることだと感じました。テーマを設定し、調べて、自分なりに解釈する。その解釈を外の世界に発信することに大きな意味があると思います。私たちの好きなファッションは、まったく関わったことのない誰かの考え方も変える力を持っていると気がつきました。
若い世代にこそファッションを入り口に 社会問題に向き合ってほしい
李 若い世代が多いZOZOTOWNのユーザーに向けて、何かメッセージはありますか?
最優秀賞チーム 入り口はどんな形でもいいので、同世代のみなさんに私たちの傷やこの社会で起きている問題について知ってほしいと思い、目を引いてもらえるインパクトのある作品をつくりました。私たちの作品が、若い世代が社会問題と向き合うきっかけになると嬉しいです。また、このドレスが個性的であるように、みなさんにも好きな洋服を自信を持って自分らしく着てほしいですね。
ソウゾウのナナメウエ賞チーム 私たちは、洋服には無限の表現力があると感じました。TPOをわきまえたり、他人からどう見られているのかを考えたり、外の世界から影響を受けることもあると思います。それを自分の中で噛み砕いて好きな洋服を着ることが大切です。なので、洋服やメイク、ライフスタイルなど、色々な角度から自由に自分を表現してほしいですね。
李 今回、みなさんのおかげで社会問題に改めて向き合えました。ルッキズムやいじめをはじめ、様々な社会問題を耳にする機会は多いですが、なかなか自分ごととして日常の中で考えることは少ないですよね。みなさんに社会問題について考える機会をいただいたので、ZOZOは作品に込めた想いを多くの人に届けたいと思います。
ファッションには、自分を変えたり、誰かに影響を与える大きな力があります。古着をアップサイクルして制作する今回のプロジェクトでは、今を生きる若い世代が感じている不安や怒りを込めてそれぞれの作品を生み出しました。みなさんもファッションを通して社会に溢れる様々な問題について考えてみませんか?
※本記事は2025年2月時点の取材に基づいた記事です。

文化服装学院
ブンカフクソウガクイン
文化服装学院は日本最初の服飾教育学校として認可されて以降、日本のファッション教育の中心的役割を果たし、2023年に創立100周年を迎えました。コシノジュンコ、高田賢三、山本耀司、津森千里、丸山敬太、皆川明(mina perhonen)、高橋盾(アンダーカバー)、NIGO、落合宏理(FACETASM)、岩井良太(AURALEE)など国内外で活躍するデザイナーをはじめ、流行の最先端で活躍するクリエイターやスタイリスト、バイヤー、プレスなど様々な職種でファッション業界をリードする人材を輩出。文化服装学院を飛び立った30万人以上の卒業生たちは、日本のファッションを世界トップレベルまで押し上げ、その第一線で活躍し続けています。
また、海外メディアによる世界のファッションスクールランキングにおいては日本で唯一選出されるなど世界の有名校と肩を並べ、常に注目を集めている日本を代表するファッションスクールです。