“ガールクラッシュ”とは?自然体な発言やファッションが世界中の女性に力を与えるコンセプトに注目
誰にも媚びないファッションスタイルや力強い歌詞が世界中で人気を集めるコンセプト、“ガールクラッシュ”を知っていますか?「女性が惚れ込む女性」を意味する言葉で、BLACKPINKや2NE1、MAMAMOOなど多くの韓国アイドルがそのスタイルを体現しています。今回は、ガールクラッシュの魅力や流行のきっかけについて、ソウル在住のジャーナリスト・菅野朋子さんにお話をお伺いしました。
この記事でわかること
- “ガールクラッシュ”がなぜ多くの人に支持されるようになったのか
- 韓国で“ガールクラッシュ”が広まったきっかけは「フェミニズム」への意識変化
- 日本と韓国のアイドル観の違いとは?
“ガールクラッシュ”とは?
——K-POPガールズグループが発端となり、世界中で注目を集める“ガールクラッシュ”。韓国内ではどのような広がりを見せているのでしょうか。
“ガールクラッシュ”とは、「女性が惚れ込む女性」という意味で使われている言葉で、主にそれを表現するアイドルを指しています。“ガールクラッシュ”を象徴していると言われるBLACKPINKが登場したのをきっかけに、Z世代を中心に拡大。それより前にデビューした2NE1やBoAも“ガールクラッシュ”だったのではないかと語られるようになりました。30〜50代の世代の方々からも、「“女らしさ”という縛りから、やっと自由になった」と、肯定的に受け入れられている文化だと思います。
代表的なBLACKPINKを例にとっても、従来の「可愛らしさ」や「純真さ」を前面に押し出したアイドルとは一線を画す、力強い歌やダンスが印象的です。楽曲の歌詞も自分の考えを表に出す内容のものが多いですし、ファッションはいわゆる“アイドルらしい” 服を着させられているのではなく、既存の価値観にはとらわれない服を着ている印象があります。またBLACKPINKはタイ出身者や海外で暮した経験があるメンバーも多く、韓国語だけではなく英語やタイ語など、外国語に堪能。あらゆる場面で、自分の言葉で自分自身の意見を語る”かっこよさが多くの人々に支持されているのではないでしょうか。
——“ガールクラッシュ”が韓国内で拡大したきっかけは何だったのでしょう。
“ガールクラッシュ”の流行は女性蔑視に対する抵抗感も追い風になっていると思います。2015年に感染症の「MERS」が流行したときに、「20代の女性が韓国にMERSを持ち込んだ」というフェイクニュースがあり、インターネット上で女性蔑視の書き込みが飛び交ったそうです。
翌年の2016年には、韓国・江南駅近くの公衆トイレで女性を狙った通り魔事件が起こりました。もしかしたらこの事件の被害者は自分だったかもしれないという思いが共有され、「自分達で社会を変えていかなければ」という価値観が韓国の中で広まっていた時期に、BLACKPINKがデビューし注目を集めました。そういったフェミニズムへの意識の高まりが、“ガールクラッシュ”が拡大したきっかけだと思います。
また、“ガールクラッシュ”もどんどんアップデートされています。2NE1のヒット曲である『I AM THE BEST(私が1番イケてる)』のように、少し前は「強さ」が前面に出ていました。しかし今は、「自分らしさ」に移り変わっているように見えます。Tシャツにデニムといったシンプルで飾らないファッションスタイルなど、自然体でいるアイドルが増えているように感じます。
日本と韓国のアイドル観の違い
——ありのままの自己表現が世界中で人気を集めているのですね。日本と韓国のアイドル観の違いは何ですか。
国内市場規模が小さい韓国では、海外への進出を視野に入れた戦略でアイドルを売り出しています。つまり海外のアーティストと競えるだけの歌やパフォーマンスなどが求められる訳です。完璧なアーティストでないと世界では通用しないことから、韓国国内のファンが求めるものも世界基準だと言えるでしょう。一方で、日本では「可愛らしさ」や「親しみやすさ」が重要視されているので、違いはオーディエンス側にあると言えますね。
韓国では家父長制を強いられていた時代は、女性の声が届きにくい世の中でしたが、METOO運動や“ガールクラッシュ”が広まってからは、自身の考えを言葉にして発信する女性が増えて、社会が無視できない力を持ち得てきたと思います。MAMAMOOのメンバーであるファサが、外見について誹謗された際に「この時代が言う美しさの基準に自分が合わないのなら、私自身が違う基準をつくればいい」と発言したように、自分に誇りを持ち、それを言葉で表せるのは素晴らしいですよね。韓国と同じように環境に不自由さを感じる女性が世界中にいるからこそ、“ガールクラッシュ”は世界でも共感されるようになったのだと思います。
韓国にはセクハラやパワハラに対してサポートする市民団体が多く存在します。団体が行うフェミニズムデモに一般の方も参加したりなど、「自分が自分らしく生きる」ための関心・パワーが大きいと感じます。“ガールクラッシュ”は見せ方や形を変えながら、今後も世界中に拡大していくのではないでしょうか。
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今回は“ガールクラッシュ”という言葉を通して、他人に囚われることなく自分の意見やスタイルに誇りを持つ考えについて教えていただきました。これからも「自分らしい自己表現」をするアーティストには注目が集まりそうです。女性アーティストが楽曲やファッション、発言を通して「自分らしい自己表現」をし、それらが“ガールクラッシュ”として支持される今。「自分らしい自己表現」、それを「世界中の誰もが」できる時代へ。それは、「持続可能な開発目標」であるSDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」達成へも、繋がっていくはずです。

菅野朋子
カンノ トモコ
ソウル在住のジャーナリスト。出版社、「週刊文春」 記者を経てフリーに。その後韓国に移り住み、韓国社会とエンタメ産業の変化を目の当たりにしてきた。 近著に、『韓国エンタメはなぜ世界で成功したのか』(文春新書)がある。