創業100年以上の歴史を持つ宇野刷毛ブラシ製作所に聞く、衣類を長持ちさせる洋服ブラシの使い方【後編】
大正6年から刷毛やブラシを手作業でつくり続けている「宇野刷毛ブラシ製作所」3代目の宇野 千栄子さんと宇野 三千代さんへのインタビュー後編。三千代さんに服のお手入れの秘訣を教えていただきます
お手入れする服の素材に合わせた 、 毛質のブラシを選ぶ
——まずはブラシの選び方から。毛質による違いを教えてください。
三千代さん お手入れする洋服の素材に合った毛質のブラシを使います。たとえば素材が柔らかいものには柔らかい毛質のブラシを、硬いものには毛の密度が高いものやしっかりしたブラシというように。特に細い毛糸で編まれたニットやなめらかな手触りのコートは繊細なので、柔らかいブラシが適しています。「カシミヤ用ブラシ」は柔らかい毛質で、衣類を傷つけることがなく、どんな素材でも幅広く使うことができるので、おすすめです。
細く柔らかな馬毛が密集しているカシミヤ用のブラシ。しなやかにブラッシングできるので、素材を傷つけることなくお手入れができる。
——ブラッシングをするときのコツはありますか?
三千代さん 服に対して毛先を垂直に当てるのがブラッシングの基本です。最初に繊維の流れと逆方向にブラッシングして埃や汚れをかき出します。その後、繊維の流れと同じ方向にブラッシングして整えてあげる。毛先が何回も当たることによって繊維をなめらかに整えたり、埃をとることができます。ブラッシングの方法は、ニットやコートだけでなく靴でも同様です。繊維を整えるようにブラッシングすることで衣類、靴の表面が美しく仕上がります。
ブラッシングで繊維を整え、 本来の良さを引き出す
——ニットのお手入れはどんなことに気をつけると良いですか?
三千代さん ニットは柔らかく繊細なので、カシミヤ用のブラシを使うのがおすすめです。毛玉になっている部分は念入りにブラッシングして、毛玉を繊維の上になじませてあげる感覚。そうすることで、繊維がほぐれて元の状態に戻っていきます。どうしても毛玉が気になったら、毛玉だけカットしてブラッシングすれば大丈夫。汚れが気になる場合は、一度洗って綺麗にしてからブラッシングするとより効果的です。脇の部分は摩擦で毛玉になりやすいので、気づいた時にお手入れしてあげると良いです
ニットに対して垂直に立てることで、やさしく毛流れを整えることができる。
左がブラッシング前、右がブラッシング後。数回ブラッシングしただけで毛玉が落ち着き、毛並みが整っているのが分かる。
——靴のお手入れ方法を教えてください。
三千代さん 衣類に比べて靴はしっかりした素材がほとんどなので、硬い毛のブラシを使います。スエードなど起毛している革の場合は、硬い豚毛のブラシで逆方向にブラッシングすることで、ねている毛が起毛され、埃も一緒に取ることができます。表革の場合は柔らかいブラシで表面をブラッシングすることで埃が取れてきれいになりますが、専用のクリームを付けてなじませるように磨いてあげるとより効果的です。
左がブラッシング後、右がブラッシング前。スエード、バックスキン、ヌバックなど起毛している革は、中に溜まったホコリをとることで、色まで変わる。
——ブラシ自体のお手入れはどのようにすれば良いのでしょうか?
三千代さん 洋服ブラシは埃などが溜まりやすいので、ご家庭にあるヘア用のコームやクシやペット用のブラシなどを使って、根本から上に押し上げてブラッシングし、上に出てきた埃を取り除きます。
使ってこそ分かるブラシの魅力は、 「手入れをする」気持ち良さ
——ブラシがある“丁寧な暮らし”を提案されていますが、これからの展望を教えてください。
三千代さん これまで国内外の展示会や催事を通してたくさんの方に宇野刷毛ブラシ製作所の製品を紹介してきましたが、やはり実際に触ったり試さないと分からないことが多いと感じています。現在は中高年層のお客様が多いですが、様々な取り組みを通して若い方々にもブラシの魅力を知っていただき、生活に取り入れていただきたいと思っています。一般的には、洋服が汚れたり傷んできたらクリーニングに出すことが多いと思いますが、特にニットやコートは自分でお手入れをする方が洋服への負担も少ないんです。出かける前に埃を払ったり、ちょっとお手入れをしてから、しまっておくだけでも全然違います。「洋服を長く大切に着るためにブラシを使う」という風に、暮らしの中に取り入れてもらえたら嬉しいですね。